Autodesk University Japan 2015

E-2 イノベーション

株式会社アルゴリズムデザインラボ 代表取締役 コンピュテーショナルデザイン・風光環境建築デザイン専門 重村 珠穂 氏

コンピュテーショナルデザインを利用した近い未来の建築

dynamoによるfeedbackデザインと、環境シミュレーションの可能性

株式会社アルゴリズムデザインラボ
代表取締役
コンピュテーショナルデザイン・風光環境建築デザイン専門

重村 珠穂 氏

スケールアップしたAUJ2015で、大きな注目を集めた1つが、新設されたTrackEイノベーションです。この新しいカテゴリは、文字通り各業界に革新をもたらす最新の取組みや知見を、いち早く紹介していこうというセッションです。特に「E-2」は、建築業界で話題のコンピュテーショナルデザインや風光環境建築デザインの専門家として知られる重村珠穂氏が登場するだけに、感度の高い建築業界関係者が多数来場しました。MITやハーバード大などを経てアメリカでも最先端のBIMの現場で活躍してきた重村氏は、日米のBIMの現状を比較しながら、BIMを中心とするコンピュテーショナルデザインの現状と将来について語りました。

「はじめまして、重村です。まず、この会場がとてもアットホームな雰囲気で、リラックスして発表できることを嬉しく思っています。――さて、皆さんもお気付きの通り、いまや日本の建築業界でBIMという言葉を耳にしない日はありません。新聞や雑誌でもこの言葉が、華やかに取り上げられています。しかし、だからこそあらためて建築業界の最新のコンピュテーショナルやBIMの現状について、もう1度考えなおしてみる必要があります。“日本のBIMは本当にきちんと進んでいますか?”“ガラパゴスになっていませんか?”。そんなふうに私は皆さんに問いかけたいのです。本セッションでは海外のBIMの最新動向等とも比較しながら、こうした未来の日本の建築と建設について考えていこうと思っています」。

重村氏はまず、自身の経歴を紹介していきました。大学院卒業後、大手ゼネコンで施工のエンジニアとしてキャリアをスタートした重村氏は、すぐにアメリカへ渡り、MITからハーバード大学院に学ぶなど、日米を忙しく行き来しながら産学両分野でコンピューテーション技術を利用した多彩な活動を展開。旧新国立競技場、NYワールドトレードセンター等の大型プロジェクトに参加したほか、日本の大手ゼネコンの BIM 支援業務にも取り組むなど、両国の最新のBIM現場に深く携わってきたと語ります。気取らない軽妙な語り口で重村氏が紹介するアメリカ建築業界のコンピュテーショナルの「いま」は、驚くほど新鮮かつ刺激的で、会場いっぱいの聴衆をたちまち魅了します。

「アメリカの大学の建築学科には必ずウッドショップがあります。10年前にMITにいた時、すでにCNCや3Dプリンタ、レーザカッター、ウォータージェットがありました。米国では自分のデザインはプロトタイプまで自分で作る、というルールがあり、特に難しい形状は“どう建てるか”まで設計者が責任を持って考えなければなりません。しかも1人でやるのが当然なので、コンピュータの力を借りざるを得ません。学生たちはさまざまな機器を駆使して自ら模型を作ります。裏返せば、彼らがコンピュータの力を使うのは、あくまで思考に最大の時間を注ぐためなのです。さらにいえば、彼らが大学へ行くのは、単に知識を学んで「A」を取るためではなく、“新しいもの”を作るために行くのです。この点は日本と大きく違うといわざるを得ないでしょう」。

続いて重村氏はBIMの現状について、アメリカ発祥のBIMの生い立ちを遡り、契約社会であるアメリカの建築業界の「設計と現場の溝」がBIM創成の遠因になったと指摘しました。アメリカでは、自分の「スコープ」=担当業務にのみ責任が発生するため、「設計」と、もらった図面通りにつくることだけに集中する「現場」の溝が大きく、こうした環境下であいまいな図面で高品質な建築=ものづくりを行うのは困難だったというのです。これを克服するため、自動車産業の製造スタイルに学んだ建築業界が生みだしたのがBIMだったのです。ここから、いまの海外と日本のBIMの現状の違いが見えてくると重村氏は言葉を続けました。そして、そのキーワードとして上げたのは「強さの弱さと弱さの強さ」という不思議なフレーズでした。

「日本の建築業界の施工技術はレベルが高く、そこで働く職人さんたちも凄い技術を持っています。また、設計者と施工者の関係が「法的契約」だけではなく「信頼」でつながっています。そんな“強さ”をもつ日本の現場に対して、アメリカなど海外の施工現場はそうした“強さ”を持っていません。しかし、高度な技術や腕の立つ職人がいない“弱さ”ゆえに、彼らは自動車産業のノウハウを転用してコンピュータの力を積極的に生かそうとしました。そして彼らはBIMを生みだし、これを進化させて別の“強さ”を獲得したわけです。今では、BIMモデルで現場の施工管理や設置状況をリアルタイムで確認するシステムがあたりまえのように使用されています。使用言語が異なってもビジュアル化されているゆえに、誰でも施工可能な環境づくりに努めています。難しい形状の建物もコンピュータの技術を利用して建設が可能です。これが“強さの弱さと弱さの強さ”ということであり、そう考えていくと、日本の現状は“高品質な建築を施工するを環境を実現できている”ことに甘えてしまっているようにも感じます。むしろ、海外のBIMはすでにはるか先を進んでおり、日本はまだまだ遅れている――そんな危機感を持つべきではないでしょうか」。

重村氏は次なるテーマ「“つなげる”ことの強さ」提示します。何かと何かを繋げるだけで両方を強くする――その例の1つとして、アメリカの建築業界の最新トレンドであるビジュアルプログラミングの世界を紹介していきます。そして、その最新・最強の成果として取り上げたのがDynamoです。3Dモデリング(Design)とBIM(Build)を繋ぐDynamoのパワフルな機能を生かしたBIMの多様な展開を示し、環境シミュレーションと繋ぐこと、ビッグデータと繋ぐことなど、その他の技術も含めた無数のビジョンを次々と提示。そのイマジネーションに圧倒された聴衆に向って、最後に重村氏は「継続し続けること」「考えること」の大切さを語りかけたのです。

「トヨタの“カイゼン”もそうでしたが、変え続けること、つくり続けること、改善し続けること――“○○し続けること”をできた所が勝つのではないかと、私は思っています。その中でも大切なのは“考える続けること”です。写真用品メーカーであるコダックは、膨大な数の社員を擁する世界的大企業でしたが、2012年に事実上の破綻をしました。しかし他方では、たった3人で開始した画像共有サービスのインスタグラムは、いまや世界中で使われるようになっています。このことからも、企業のサイズではなく、ものづくりにおいてはまず「考えること」が、いまとても大切なのではないでしょうか。今日のわたしの話が、何かしらお役に立てればとても嬉しいです。ありがとうございました」。

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